沢山の学生のレッスンをしています。その中で、ある程度の曲は割と苦労することなく譜面どおりに吹けてしまう学生達がいます。小さい時からそのように吹けてしまっていたので迷わず吹いて来たようです。ところが、様々なソロや合奏をするようになると、演奏する音楽の範囲も広くなって技術的にもグレードがあがってきて今までの様にはいかなくなってきました。本人達もどこに解決の糸口を見つけたらいいのか困っています。彼らを観察して先ず気がつくのは「口先が器用」ということです。アンブシュアもバランスよく、ある程度の曲はパラパラと吹けてしまいます。彼らにとってはそれが当たり前で、周囲も便利に彼らを使って来たという経緯があるのだと思います。今まで上手くやって来たのだからこれからも上手くやっていけると思っていたのでしょう。なので、彼らにとってはある意味はじめての壁のようなものにぶつかった思いのようです。
彼らに共通しているのは、指は回るけれど音の響きはあまり豊かではないということです。息の出し入れに関して無造作でテキトーな感じがすることです。息の流れが仕事をするという感覚に乏しいのです。
そこで、音の当たり、響きの感覚からもう一度確認することから始めます。「初心者は何をすべきか」から始めるわけです。初心者の音域を練習します。五線を越える所までの音域です。そこをどのように練習するかということを徹底します。ここで息の流れが仕事をすることを覚えるわけです。ラッパ吹きは何十年吹いて来たとしても「朝起きたら初心者」なわけで、その日の朝のはじめての練習が一番大切です。初心者の音域を初心者と同じ様にテキトーに練習していたら上手くならないわけです。粘膜奏法で低い音は開いて高い音は締め上げる。喉は地声のポジションで大きい音は怒鳴る。小さい音は唇で締めて出す。等々・・・初心者の吹き方を避けながら新しい音の世界を経験していきます。器用な学生にとっては我慢の必要な練習ですが、結果が出てくるとその必要性を理解するようです。